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おわりに

道内における漁船造修を取り巻く環境は厳しいが、今後にあっても、あらゆる漁業が資源管理型漁業に移行している現在の潮流の中で派生する、沖合漁業と沿岸漁業の資源水準に見合った操業体制の構築過程で、漁船隻数が現在の水準よりもかなり少なくなることが予想されることから、漁船の造修需要は構造的な縮小状況が続くものと見込まれる。
こうした状況にあるにもかかわらず、道内の中小造船所が従来と同様の漁船造修依存姿勢を続ければ現状維持すら危うく、需要減少に伴う競争激化により淘汰される造船所が多数出てくるものと考えられる。こうした事態を回避するためには、基本的には自助努力で新たな需要先を開拓し、漁船造修の減退をカバーすること、さらに望めば、道内の中小造船業界を支えるもう一本の柱となる事業分野を早急に確立していくことが必要である。
本調査研究では上記の認識の下に、海洋上木作業船市場への参入と、資源管理型漁業に対応した漁船等の開発による漁船市場での新たな対応を検討してきた。
作業船の分野では、この市場での特筆すべき動向を捉え、克服すべき課題を明らかにし、業界として「今後とるべき経営方針」を提言するに至った。調査研究を進めていく過程で、この分野が決して安易に取り組めるものではなく、中小造船業界の「従来のスタンス=漁船的思考」からの脱却を要し、シビアな経済原理と生産合理性を貫徹する性格のものであることが理解された。このことは、最優先に徹底されなければならないものであると考える。
また、資源管理型漁業に対応した漁船等の開発に当たっては、全般的に厳しさを増す漁業経営環境下にありながらも、高い設備投資意欲と継続的な建造実績及び今後の建造予定が認められる地域や漁業種類が存在していることが明らかとなり、今後においては、そうした良質な地域・分野での新規建造受注に全力をあげて取り組む一方で、資源管理型漁業の実現に向けた取り組みに関する情報を収集しつつ、漁業者のニーズに見合った技術開発を進めこれを提案していくなど、より有望なテーマに絞り込んだ漁業の将来像を意識して対応すべきであると考える。本調査研究では、こうした方向の伸展に資するべく、二船型の概要計画をとりまとめた。
本調査研究においては、作業船と新しい漁船の分野で相当量の新規需要が存在することも明らかにした。従来からの漁船造修需要が減退していることは事実であるが、こうした新規需要分野を的確に捉え、着実に取り込んでいくことによって、必ず厳しい現状を打破できるものと考える。「道内の造船所は漁業者の漁船についての話を聞いてくれない。」ある漁業協同組合の人が語ったこの言葉の中に、端なくも造船所の営業姿勢が浮き彫りにされている。営業に当たっては「顧客本位」の発想に立脚した活動を行う必要があることを再認識すべきであろう。
関係各位か本調査研究の趣旨を理解し成果を活用して、道内の中小造船業が活性化するための取り組みを強化することを期待するものである。

 

 

 

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